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ファッションは人々に力を与えてくれるもの。それは誰しもが享受できるはずの文化で、特別な知識も立場も必要ありません。だけど、時として知っておくべきことも、そこには確かにあります。あるいはマナーのTPOであったり、ドレスコードであったり。そして、ミリタリーという服のスタイルもそうです。もちろん多くは装いとしてモダナイズされたものですが、そのルーツを辿れば、軽く扱うことが躊躇われるようなバックグラウンドを持つものも少なくありません。そんなミリタリーというもののあり方と改めて向き合った、今シーズンのグラフペーパー。その理由は、現代を生きていて、国際社会に少なからず不安や憤りを覚えたことがある人であれば、説明せずともきっとわかるでしょう。これまで、ごく個人的な視点や経験を基にグラフペーパーの世界観をつくってきた南貴之は、そこに何を感じ、どうやって今季の服たちを形にしていったのでしょうか。

Interview & Text_Rui Konno

―コレクションを拝見しましたけど、今シーズンはいつにも増してユーティリティウェア的というか、そんな印象が強かったように思います。

南貴之(以下南):そうだよね。大きな話をすると、さすがに僕ですら、戦争の影響を日々の中で感じることが多かったりして、自分なりの反戦的な気分があってさ。そんな時にゴリゴリのミリタリーをファッションとしてフィーチャーしてるすごくいい本(『FASHION ARMY by Matthieu Nicol』)に出会ったんだけど、それがきっかけにもなったりして。言ってしまえばミリタリーウェアって戦争で人を殺すための服だったりするわけだけど、そのための機能を全部奪ってしまえばどうなるのかなと考えたんです。

―なるほど。そうしたシリアスな側面ももちろんですけど、その機能も実際の日常生活では持て余すものですよね。

南:やっぱり僕らの普段過ごしている都市部ではオーバースペックで使いようもないし、そもそもミリタリーウェアを選ぶのもそういう用途ではないしね。だから、そこからのインスピレーションを受けながら、あえて紳士服的な生地にしてみたり。そうやってあべこべにしてみながら考えるっていうのは僕らのひとつのやり方だから、デザインもそういう考え方でやってみようと。っていう流れで始まったからフィールドワークっていう言葉をつけたけど、実はそれに特別な意味はそこまでなくて。

―ファンクショナルなウェアからファンクションの部分をそぎ落としたと。

南:うん。もちろん要るものは残してるけど、要らないと思うものは全部排除して。だから単純にミリタリーウェアをデザインのベースにして服づくりをしました! みたいなことともちょっと違うんだよね。本来ミリタリーのスペックを持つような服を、メンズウェアが持つべき最低限の機能に留めるっていう。あくまで僕たちのやってることはファッションだし、最終的にはもちろんファッションとして落とし込むっていう考え方で。

ーでも、今までは南さんがご自身で触れてきたアートや工芸だったりに着想を得たコレクションが多かった中で、今回は環境というか外的要因が大きなインスピレーション源になっているというのがちょっと特殊ですね。

南:正直、戦争においては、僕みたいな人間でもさすがに影響を受けざるを得ないというか。そういう社会情勢に対して思うことはあっても、率先して声を上げるようなタイプではないんだけど。でも、今回も入り口はそういう感情的な部分だったりするけど、コレクションにメッセージを乗せようとは思っていなくて。あくまでそういうきっかけから発想が生まれて、人を殺さない服をつくってみようと思っただけ。

ーステートメントのようで、似て非なるものですね。

南:それはあくまでつくり手としての、こちら側の話であって、それが袖を通してくれる人に伝わらなくても一向に構わないと思ってるしね。

―こだわってつくってはいても、それを着る人に押し付けるかどうかもまた別の話ですしね。

南:うん、普段からものづくりのサンプルとしてミリタリーウェアやギアはよくわからないものまでたくさん買ってたりするんだけど、それはどういう目的でつくられたのかとか、どういう構造になっているのかとかを自分たちなりに研究するために集めているだけ。そこから街着として必要じゃないものを外していったり、過剰な装飾を避けながら一部をアイコニックに活かすとか。そういうところが、今回の出発点。このコートとかは、ブリティッシュミリタリーのトレンチがベースになっていたり。
ーミリタリーをリファレンスにするのは現代では服づくりの定番的な手法ですけど、そこの視点がちょっと変わるだけでアウトプットも変わりそうですね。

南:ミリタリーに限らないけど、昔のものをリサーチした上でどうやって自分たちらしくしていくか、みたいなところはいつも考えていること。今回はその中でもすごく面白いコレクションになったかなと思ってる。例えば素材感でも分厚いモールスキンを使ったり、スーツに使うようなウール地を使っているけど、その裏にはシートを貼り付けて防水仕様にしていたり。
- 防水仕様のフィールドパーカ

―それは南さんにとって付加・担保すべき機能だったんですね。

南:ある程度の雨風はしのげるといいなと思って。

―なんだか不思議なハリがあるなとは思っていましたけど、そういうことだったんですね。

南:表はウールだから、それ自体がはっ水するわけではないんだけどね。このバッグもそう。これの元になってる軍物のバッグはまた形が違って、それをつくり替えてる。細かく分かれた収納は活かしながら。

―このバッグなんかは機能の大部分も踏襲されていますね。

南:そうだね。あとはそういう意味では僕が軍物で一番好きな機能のひとつに、背負うためのストラップやハーネスがあって。外側に出るものではないけど、内側にそれがあるだけでもミリタリーのニュアンスっていうのは強まるなって。外側で主張する軍物らしいディテールを足していくよりも、それが内側にあって外側はシンプルな紳士服っていうバランスがグラフペーパーらしいかなと。
- 脱いだ際に背負うことができるストラップ

―この背負うためのストラップはそういう精神性の象徴として採用してるんですね。

南:いや、実際にめちゃくちゃ使ってるよ、俺は。本当に便利なの。冬場に寒くても室内に入ったら暑いし、移動で歩いてる時とかは暑くて脱ぎたくなるけど、手に持つのが嫌いなの。だからアウターを脱いでも手が空くこのディテールはすごく便利なんだよね。

―外側がシンプルだと、余計にこのディテールが際立ちますね。

南:そうだね。シンプルっていうことで言うと、例えばMA-1はわかりやすくはっ水性のあるナイロンでつくることもできるけど、あえてスーツ地でつくった上でさらに洗いをかけてくしゃっとさせて、見た目にも全然機能性を感じないようにさせたり。軍パンだったら横のカーゴポケットと止血帯は外すけど、膝のタックは動きやすさを保ってくれるし、程よい余裕が出るからそれは残して。
―ちなみに南さんは日常で止血帯を使うことって…

南:あるワケないよね(笑)。だから軍物を眺めながら、要らないものはどこかな? っていうのは結構考えたよ。そういう考え方とか手法が、今回はいろんなところに活きてます。俺はヘルムート・ラングの姿勢とかがやっぱり好きなんで、彼のやってたミニマリズムとか、ミリタリーウェアに対する考え方とかには、少なからず影響されてると思う。意外と、こういう部分は残すんだ…!?とかって、昔は結構思ったり。

―今回も生地はやっぱりオリジナルでつくったものが多いんですか?

南:そうだね。やっぱり生地をつくるのは好きだから。スーパー160’sでサキソニーをつくってみたり。ウールのドスキンをつくったり。いわゆる礼服に使うような上品な生地だけど、それをイージーに仕立てたいな…なんて考えたりね。

- Super 160’sで製織したサキソニー生地

―そういう部分にマイペースなグラフペーパーらしさは感じつつ、今回のコレクションの始まり方を知ると、世相とファッションの関係をどうしても意識してしまいますね。

南:まぁ、とは言っても俺自身はそもそもファッションがそんなに好きじゃないからね。自分自身では着飾るとか格好よく見せたいとか、そういう気持ちももうほぼないし、格好も毎日同じような服ばかり。提案しているものはもちろんファッションだし、矛盾してるようだけど。自分自身では年を重ねるうちに、昔みたいに服やファッションに対して興味を抱けなくなっちゃったのかもしれない。その分、徐々に社会や世の中とかそういうところから受ける影響が大きくなったのかもしれないし、ファッション以外に自分の興味を惹くものがあればそっちをテーマにして服をつくると思うしね。

―服との関わり方や距離感も、やっぱり年齢によって変わってくるんですね。

南:そうだろうね。生活する中で得られるものが増えるし、若いときは欲しくても買えないものがたくさんあったけど、今は物欲もそんなにないし。そうやって年を取っていくんだろうね。だからこそ、若い人たちが何か知らないものを知ろうとしたり、新しいことをやってみようと思わないとしたら、それは俺にはちょっと理解できない。時間は有限だし、時間が経ってから後悔することになるんじゃないかなって。

―あんまり世代のマウントみたいな書き方にするべきではないと思うんですけど、実際に昔のような熱量をファッションシーンで感じる機会が減ってしまったのも事実ですよね。

南:情報が多すぎるからなのかもね。ただ、それでも自分でやっぱり探したり、深掘りして調べたりした先で見るものは、全然解像度が違うんだっていうのは分かってほしいなと思うよ。今回のコレクションも、ただ表面だけのミリタリー風じゃなくて、本物を実際に見ながら何が必要か、そうじゃないかを考えてつくったもの。別にこのグラフペーパーの服を買う必要なんてないけど、新しいものに触れることはきっと無駄じゃないと思うよ、って。

―南さんはあまり受け手に語りかけるような姿勢でものづくりをされてるイメージがなかったから、今回は余計に新鮮でした。

南:今までのコレクションのテーマを振り返っても、ごく私的なことばかりだしね。とは言え、今回は社会や世相にまつわることが着想源だけど、感情的にはやっぱり私的なものだよ。俺って今、戦争に対して本当にムカついてるんだな…って。そういう気持ちに、嘘はつけないから。



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